• 2020.02.13
• シニア事例

伊那市通り町(とおりちょう)一丁目商店街。伊那市だけでなく上伊那地域の人々から親しまれ愛されてきたこの町を、ミニチュアで再現している小平さんをご紹介します。

ひとと人をつなぐミニチュア建物(伊那市)

きっかけは…

　小平さんご夫妻は、伊那市で手作り雑貨（木工品、布小物など）やアンティーク雑貨のお店GREEN GABLESを営んでいます。教職を退職後、2012年に開店しました。季節ごとに、バラや色とりどりの花が咲き乱れる庭、そして赤毛のアンの家を彷彿とさせる緑の切妻屋根の家が目印です。「何か小さくて、商品になるもの」を探していた和夫さんは、当時母親の介護をしていた伸子さんの勧めでトールペイント講座に通い始めました。男性は一人だけ の教室で、「花の絵ばかりじゃちょっと…」と思い始めていた時、お手本帖に建物の絵を見つけます。伸子さんがミニチュアハウスを収集していたこともあり、「伊那の看板建築(※)を、トールペイントで作ってみたらいいんじゃない？」とヒントをもらい、和夫さんのミニチュア建物づくりが始まりました。

自分の歴史からみんなの歴史に～通り町を語れる人々との出会い～

　和夫さんは当時、飯田歴史研究所で、自分の好きな景観を描いて本にまとめる活動に参加していました。ここには、伊那谷の歴史を専門にしている人も多くいて、そうした活動の中から「通り町の歴史を調べてみよう」と思ったそうです。そこで、町の写真を撮り、自分の歴史として語れる商店街の人に会い、話を聴き、冊子にまとめました。商店街の人たちと話をするようになって、地元の人々の通り町への愛着を感じ、自分自身もさらに思いが深まったそうです。
　通り町は昭和24年の大火後、数カ月の間に復興を遂げた商店街です。この時代に建てられた看板建築の建物が今に残っています。
　ミニチュア建物の第1号作品は通り町商店街の〈スーパーニシザワ〉。「レトロ！いいなあ。」と通り町1丁目の西側を作りました。商店街の人に「反対側も作ってよ。」と言われ、ミニチュアのまちづくりがはじまります。

知らない人と会話が弾む　

　ミニチュアの建物も90軒ほどになった2016年夏、通り町商店街の吉瀬さんに勧められ、伊原商店に展示することになりました。「見に来た人たちが懐かしがってくれたんです。伊那の人はすぐわかる。昔を知っている人たちは、一緒に来た人とすぐにしゃべりだすから。」ニシザワデパートの観覧車、クリームソーダとラーメン、サルの電車、家族で出かけた思い出、靴でも服でも買い物は「通り町銀座」だった賑やかだった時代がありました。やがて中央道ができ、車社会が進み、駐車場がない街中の商店街から次第に郊外店へと人の流れが変わっていきます。しかし、このミニチュアのまちを見ながら、自分の愛着のある時代に思いを馳せることができるようです。

ワクワクする探究心！

　和夫さんは、在職中、県の埋蔵文化センターで発掘をしていました。発掘した土器を測り、記録に残しながら「（土器の）作り手はどんな人？どんな使われ方をした？」と想像をめぐらしていたそうです。「（和夫さんは）調べることが好きな人。」と伸子さん。そんな経験が、通り町のミニチュアづくりにも生かされているようです。怪しまれないように（笑）、朝早く巻き尺を持って出かけ、建物を測り、レーザーで測定し、撮影した写真のゆがみを補正してからとりかかります。「全部絵に描くから、今まで大雑把に見ていたものを詳しく見られるようになりました。」と和夫さん。

懐かしさと新しさ

　通り町は、様々な住民がかかわり、新たな風も吹き始めています。懐かしさと新しさがゆるやかにつながる通り町。
　ミニチュア建物の商店街を眺めながら、多くの人が懐かしみながら会話を弾ませる様子が目に浮かびます。
　このまちを愛する人の想いが込められた、小平さんのミニチュア建物づくりは、まだまだ続きます。
※「看板建築」：関東大震災復興時に東京で多く建てられた商店建築。ファサード（正面）をまるで一枚の看板のように装飾したことから建築家・建築史家の藤森照信が命名。凝ったデザインのほとんどが建築家ではなく、施主や大工の発想で生まれたという。
(藤井佳代　伊那支部シニア活動推進コーディネーター　2020.02)

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