上田市の北面に構える虚空蔵山、太郎山、東太郎山の三山は太郎山山脈と呼ばれ地域に愛される里の山である。上田菅平インターチェンジのほど近く、住宅地からその東太郎山を目指して裾野の集落を上っていくと谷筋に広がる畑に到着した。朝6時半。
「朝6時からやってるよ」
と、あらかじめ場所は伺っていたが、数人で耕している小さな畑をイメージしていた。ところが畑の手前には10台ほどの軽トラックがずらりと並び、これまた立派な広い畑では、15名ほどの男性たちがせっせとブロッコリーの苗を植えている最中だった。
例年よりも半月ほど早い桜の開花を迎えた4月だったが、朝日に眩しい谷合を抜けていく風には、手がかじかむほどの冷気がこもっている。畝の位置決めのロープを握る人、苗を植える穴を掘る人。穴に苗を放り込む人に、苗に土をかぶせる人。手慣れた手つきに苗の若葉色があれよあれよと畑に広がっていく。さすがは“勤農老士隊”。一糸乱れぬ団結力で見事なブロッコリー畑が完成した。
そもそも、高齢化で耕作が継続できなくなった畑を農家の代わりに地域の有志の男性たちが集まって、ボランティアで耕しはじめたのが5〜6年前。名付けて“勤農老士隊”。時には庭木の剪定など、高齢者世帯のちょっとした困りごとにも応じている。その後、“これだけではつまらない”と、せめて“飲み代”くらいは稼げるように昨年から本格的な畑作りが始まった。
メンバーの最高齢は81歳。専業農家ばかりではないものの、“隊員”たちが培ってきた多彩な技を活かせるのも“勤農老士隊”のいいところである。
「これ作ったんだよ」
と、畑のことを私にご紹介していただいた“Y”隊員が見せてくれたのは、小型の火ばさみ(トング)。長年の機械加工の技で余った鉄板を利用して作ったとのことだったが、これが家庭で使うにはちょうどいいサイズ。さすが“勤農老士隊”なのだ。
「お金が目的じゃないから」
と話す初代“隊長”さん。それぞれがいろんな技を持っているから、いろいろ試してみているという。
以前は昼過ぎまでかかった畑作りだったが、手際のよさも手伝って早朝6時から始めた作業は小一時間で片付いてしまった。
「今日は早く終わったなあ」
「途中休まずにやったからね」
「みんな、“負けるもんか!”でがんばったな」
朝食代わりのペットボトルとおにぎり一つが配られてひと休み。今日は夕方6時から地元の公民館で懇親会が開かれるとのことだった。
「会費500円お忘れなく。早く来ないと、なにもなくなるよ!」
太郎山の緑が日一日と濃くなる4月。6月の終わり頃にはブロッコリーの収穫を迎える。もっと稼いで、みんなで温泉に行くのが“隊員”たちの夢なのだ。
早朝から“隊員”たちが集結。
栽培されなくなったりんご畑を開墾した。
今日の作業はブロッコリー3,000本!
手際よく苗を植えていく“隊員”たち。
手づくりの“トング”にも培ってきた技が宿る。
声を掛けあいながら作業は進む。
81歳の“隊員”も如雨露を握る。
一息。収穫が待ち遠しい勤農老士隊です。
※文・写真:シニア活動推進コーディネーター 下倉亮一(上小支部)