初秋の佐久平を走っていると道端に大きな熊のぬいぐるみが目に留まった。近寄ると「プルーン200円」とある。フランス語の“マルシェ”(市場)というには小さいけれど、自宅で採れた野菜や果物を軒先に並べているのだろう。プルーンを載せた台にはお代を入れるペットボトルに「ぬすまないで下さい」の注意書き。傍らに備え付けた壊れたビデオカメラは防犯カメラのつもりなのだろうか。どこまで本気なのかわからないゆるさ加減にニコニコしながら100円玉を2枚入れて“ミニ”マルシェを後にした。
今日は昨年から引き続き2回目のタウンミーティング。「シニアの出番発見!佐久広場」と掲げられた会場には、地元で活動する様々なグループが出展の準備をしていた。会場を見渡すと懐かしい顔を見つけた。小諸でおもちゃの修理などに取り組む「おもちゃなおし隊こもろ」の方である。昨年小諸市で開催したねんりんピックで、地元の活動を、と社協のボランティアセンターにご紹介いただいたのが初めてだった。おもちゃの修理だけでなく工作の体験も楽しいグループである。お話を聞けば相変わらずの人気にお忙しい様子だったが、メンバーにお亡くなりになられた方もいらしたと伺った。月日の流れはあがらえないが、“活動をつなげ広げていくのは難しい”と話されていた。どれほど技術が進歩しても、知識や経験は人にまつわるもの。地元に伝わる昔話を紙芝居に残して地域に伝える小海町のグループの方も“今しかない”とのこと。地域の言い伝えを語れる方も、もう間もなく姿を消してしまう。
当日、飛び入りの参加があった。高齢者向けにアロマを使ったハンドマッサージやメイクに取り組むヘアーメイクコーディネーターの女性である。アロマオイルは認知症予防にも効果があるとして関心が高い。歳を重ねると化粧やおしゃれにかける時間も減りがちだが、“自分はそうなりたくない”。歳を重ねてもちょっぴりおしゃれして外出したい。そんな想いに寄り添うために、高齢者へハンドマッサージやメイクをすることを思いついたのだという。参加申込書に記された“メイクで気持ちも若返り”という一言がとても新鮮に映った。
外出の機会が減ると、社会とのつながりも少なくなり、余計に体力が落ちて、いずれは介護が必要な状態に陥ってしまう。心身のみならず社会的な孤立も含めた虚弱な健康状態を近年“フレイル”と呼ぶようになったのも、今日の高齢者の健康が地域社会を抜きにしては決して語れないことの表れである。プルーンもメイクも、高齢者が社会から孤立せず、その人らしく生き抜くための大切な営みである。
はじめは会場の賑やかさに緊張の様子だったが、高齢者を前にハンドマッサージの実演が始まると、体験者の笑顔にいつもの調子が戻ってきたようだった。「自信無かったんですけど」と言いながらも、様々な活動者の様子を肌で感じる中で、ちょっぴり自信が得られたようだった。まだ勉強中だけれど“学びながら自分のできることを”という言葉に、大切なことを教えていただいたように感じた。
多彩に活動する地域の方々との交流を通じて高齢者の社会参加を広げる「シニアの出番発見!佐久広場」。
お手玉などの昔ながらの遊びを通じて地域の交流に取り組むグループもありました。
小海町で体験農園を通じた地域づくりを展開する「八峰(ヤッホー)村」さん。藁で縛られているのは福島県飯館村の郷土食「凍み餅」。気候が似ている小海町から「凍み餅」作りを通じて被災地支援に取り組んでいます。写真の右側の葉っぱは餅に混ぜ込むオヤマボクチ。福島県の方言では“ゴンボッパ”と呼ばれ、小海でも栽培を増やしているとのことでした。
「おもちゃなおし隊こもろ」のみなさんが用意していただいた“からくり”工作です。
アロマとハンドマッサージ。自然と笑顔がこぼれます。