千曲川の西岸、正面に太郎山を望む傾斜地に造成された住宅地の一角に「ふれあいワンコインサロン」の看板が見えます。日中ともなれば人の気配すらしない団地の中で、玄関先に設えた“ふれあい地蔵”の奥から賑やかな声が漏れてきます。かつてレストランだった空き店舗を高齢者が集うサロンに提供している竹内さんは、「人と関わるのが生きる証」と話す。
市の福祉推進員になった数年前、参加した研修会で、何をすればいいかと質問したところ、民生委員は家の中、福祉推進員は(家にこもらないように)玄関から外へ連れだすのが仕事、と講師からアドバイスを頂いた。高齢者の居場所はたくさんあった方がいい。そこからサロンの立ち上げが始まった。
午前10時。ぞくぞくと集まってきた地元の方でとたんにサロンは笑い声でいっぱいになった。“ワンコイン”の看板通り、訪れた方から500円を頂戴するのは気兼ねなく利用してほしいことへの配慮。「損得じゃなくて、ボランティアの精神です」と竹内さん。女性たちに中に男性の姿も見える。当初は入りずらかったとのことだが、今では年に一度みんなで出かける旅行の際には“添乗員”役をかって出るのだという。
昭和40年代の造成当時は働き盛りの家庭に多くの子どもで賑わった新興住宅地も、およそ半世紀を経過して数百世帯の団地には多くの高齢者が暮らす一方、子どもの数は両手をわずかに超えるほどだという。同地区の自治会長も務める竹内さんは「朝日ヶ丘お助け隊」を結成して地域のちょっとした暮らしの問題に取り組み、傾斜地の住宅地ゆえに孤立しがちな高齢者のために地元のスーパーへ移動販売車の利用を依頼した。「それだけ切羽詰まった状況だった」とのことだが、それでもまだ80歳代は少ない。高齢化の本番はこれからなのだという。
サロンのテーブルを囲んで話は尽きません。竿竹屋のスピーカーが遠くを流れていきます。
「この前の料理どうだった?」
「肉じゃが、おいしかった!」
「私が牛スジで作ったんだよ」
「肉じゃが、ナンバーワン!」
「みんなと話すのが本当の幸せ」という竹内さんの言葉が印象に残りました。
市の中心部から数キロだが、傾斜地の団地は高齢者にとっては暮らしにくい。
住宅地の一角にワンコインサロンはあります。
空き店舗を活用したワンコインサロン。「ふれあい地蔵」さんが入口でお出迎え。
ボランティアの方々が用意するおごちそう。サロンの軒先で育てたミニトマトもテーブルに並びます。
賑やかなひとときです。
地域の暮らしを支えるために立ち上げた「お助け隊」。
竹内さんはフラダンスを15年来続けている。出演依頼は途切れることなく、施設や道の駅などさまざまなところで「ハワイの人と同じ気持ち」で踊りを披露している。「上田ではちょっと有名だよ!」。
「今後は?」と聞くと「棺桶の準備かな。どうせ燃やすから段ボールでいいかな」。笑いの絶えないワンコインサロンでした。